麺屋BISQがすごい
茅ヶ崎に、麺屋BISQというラーメン屋がある。
▲塩ラーメン
▲煮干しラーメン
▲貝の潮ラーメン
「ラーメン屋でここまでしている店を他にみたことがない」
一言でこの店を説明するとしたら、麺屋BISQはそんな店だと思う。
▲なんと、自家製麺!!
▲店の前のイラストもユニークだ
俺はもともと、ラーメンなんてほとんど食べない人間だった。家族でラーメン屋に行ったこともないし、日常的にラーメン屋に行くこともなく育った。大学生のころはとにかく金がなくて、どこか店でラーメンなんてめったに食べなかったし、20代の後半になって、ラーメンを店で食べることができるくらいの小銭のゆとりができて、やっと、ちょっとラーメンを食べてから帰る、みたいなことも増えた。それから、それなりに色々なラーメンを食べてきたが、心から美味しいと思うラーメンというのは、そうそう多くない。
ラーメンを食べる上で、個人的な基準のひとつに、無化調かどうか、というのがある。
これが実は割合に難しい問題で、無化調ならそれでいい、というわけではないのだが、それがどうにも話をややこしくする。無化調だが美味しくないという店も多いが、化学調味料に頼らずに美味しい味を実現している店は本当に美味しい店だ、とでもいうか…
化学調味料を全否定するつもりはないが、化学調味料に頼った店は、結局、化学調味料の味を超える味わいを出すことができない。いいとこ、それなりに美味しい止まり、だと思う。
本当に美味しいラーメンは、化調に頼らないできちんと味付けしている店の中にしか存在し得ない、と個人的には思っている。
だが、そんな無化調のらーめん屋のなかでも、心から美味しいと思える店は、やっぱりそう多くはない。
まだ3回しか訪れたことがないが、本当に美味しいと思った店のひとつが、この麺屋BISQだ。
店主さんは、いやあこんなの自己満足ですよ、と謙遜するのだが、この店のしていることは、ラーメン屋としてはかなり異質だと思う。
スチコンでチャーシューを調理していたり、肉スライサーでチャーシューを切っていたり、というあたりからして、そんなラーメン屋、他でみたことがない。だいたい、スチコンを置いてるラーメン屋なんて聞いたことがない。
昨今のトレンドとして、低温調理されたチャーシューを提供するラーメン屋はずいぶんと増えた。でも、真空恒温調理もいいのだが、個人的には、総合点では、真空調理とスチコンでは、スチコンに軍配があがるような気がする。
BISQのスチコンにはもちろんきちんと浄水器が取り付けられているし、そのスチコンで調理した肉を均一な厚さになるように電動のミートスライサーで薄切りにしている。
そんなラーメン屋、本当に、他では見たことがない。しつこいようだが、スチコンがあるラーメン屋も、ミートスライサーがあるラーメン屋も、BISQ以外では見たことがない。
それから、厨房も驚くほどにピカピカで清潔だ。店内をギトギトにしたくないからという理由もあり、餃子ではなくせいろで蒸したシュウマイを提供しているというくらいだ。
▲せいろで蒸した焼売
麺を茹でる器具にも一工夫がある。テボがでかいのだ。テボというのは、鉄砲が語源の、麺を茹でるためのザルで、テボを使うことで、同時進行で何人分もの麺をタイムラグがあっても茹でることができる。あとから来た注文と、先にきた注文を同時に並行して茹でることができるので、客数をさばくためにはなくてはならない装備なのだが、一般的に、味の面では、平ざるに劣ることが多い。そもそも、麺類を茹でるのに使うザルには、テボ、平ざる、の2種類のザルがある。平ざるは、大鍋の中で泳ぐ麺を手網のような柄のついたザルですくい上げる方式で、湯切りに熟練の技術が必要だったり、同時に複数の茹で時間の麺を茹でることができない、などのデメリットがあるが、その反面、鍋のなかで麺が泳ぐので、一般的に、テボよりも美味しく茹でることができるし、麺のぬめりも少ない。
一方、テボは前述の通り、同時に複数の麺を茹でることができるので、回転を早くすることができる。麺屋BISQもテボを使ってはいるのだが、そのテボが妙にでかいのだ。ほかで見たことのないテボだ。聞くと、うどん用の最大サイズのものをつかっているらしいが、このサイズのテボなら、確かにテボのなかでも十分に麺を泳がせることができる。
ゆで麺機のスペースにはも、もちろん限りがあるので、テボが大きくなると、同時に茹でることができるテボの数も減ってしまうわけだが、BISQの茹で麺システムは、ギリギリのバランスで、テボと平ざるのいいとこ取りをしている、といえるのではないだろうか。
▲するっと細くてきれいな、角のある自家製麺。麺自体が美味しい。
▲メンマもうまい
▲完璧な味玉
そんなBISQは、さらに、麺も自家製麺を使っている。ラーメン屋で自家製麺なんて、そう聞いたことがない。ここの麺は、角のある細麺で、麺そのものがちゃんと美味い。こういう麺に慣れてしまうと、かんすいたっぷりのわけのわからないブヨブヨした中華麺では満たされなくなってしまう。
日本そばの世界では、平ざるも自家製麺もよくある話なわけだが、ラーメンというジャンルでは、どういうわけか、小さいテボで既製の麺を茹でて出す店のほうが圧倒的に多い。
小さいテボで茹でた麺は、一般的な傾向として、麺のぬめりが強く、丁寧に湯切りしないと美味しくならない。
BISQという店名が示す通り、スープも、全く文句がない。スープの製法までは流石にみることができないので、どういうことをしているのか、詳しいことはわからないが、丁寧に素材の旨味を抽出した、雑味のないきれいな美味しさで、無化調であることを感じさせない、しっかりと芯のある味わいだ。
こんな店、本当にみたことがない。
ちょっと遠いのが難点だが、茅ヶ崎の方に行くときはできれば寄りたいといつも思って生きている。
油でギトギトで床がベタベタするラーメン屋もべつに嫌いではないけれど、BISQはラーメン屋とは思えないくらいに店内がきれいだし、接客のあたりもとても柔らかい。
末永く続けてほしいと心から願いたくなるようなお店だ。